マレーシア子育て/小児集中治療修行記

マレーシア生活・子育て・小児心臓集中治療・麻酔修行記

W*随時更新、IJN式小児心臓麻酔申し送り

最初に言っておきますが、決してIJNの小児心臓麻酔は丁寧な手順や正しいことをしているわけではありません。

それは、あまりに大量の症例があるために「丁寧にできない」「コスト的に無理」「患者層が日本と違う(頑丈)」であることが理由です。

①丁寧に出来ない

「気持ちの問題」ということもありますが、実は違う原因も存在します。IJNにはアネスマン(麻酔科専属のお手伝い、看護師ではないらしい)という人がいます。彼らは彼らでIJNの手順に沿って忠実に仕事をこなしてくれます。日本には全くないシステムですので実際見てみないと理解できないとおもいますが・・・

彼らの仕事は、麻酔の準備(挿管、麻酔器周りの整備、ルート整備、輸液の交換、片付け、患者移動、シリンジポンプの移動など、薬剤の準備以外すべての仕事)です。本当によく働いてくれるので、日本の麻酔科医はびっくりすると思います。ほぼ棒立ちです。

彼らはアドレナリン持続などの超重要薬剤も移動時に並列交換しないで用意しているシリンジポンプに付け替えてしまいます。そのため移動中にショックバイタルになったり、血圧200になったりします。ただ、ここはあなた(以後くる医師)の施設ではありませんのであきらめてください。彼らに指示をだしているのはIJNの麻酔科のコンサルタントですので彼らに文句を言ってもしょうがないんです。

IJNは難しい症例をやるつもりはありません。山のようにある症例の生命力が強い患者のみを選別して生かしています。これ以上患者を増やすには明らかにマンパワーも資源も足りません。

②コスト的に無理(患者・病院側)

小児患者さんの家族の負担はほぼありません。マレーシアでも難治性の疾患や高額医療請求される疾患は政府によって賄われます。ただ、心臓移植やあまりにも数が少なかったり高額になるものに関しては自己負担が発生するようです。しかし、結局IJNしか小児心臓手術はできませんので移動費などが場所によってはかなり厳しくなります。また、マレーシアでは共働きが基本です。家族背景や宗教観も理解する必要があるでしょう。

IJNは半分政府、半分私立病院です。私立病院でもある以上病院収入も重要になりますので、限られたもので数をこなす必要があるわけです。

③患者層が日本と違う

患者さんの背景、福祉(例えば小児検診など)、病院などの社会背景が著しく日本と違うため日本と同じような脆弱な患者さんばかりではありません。ほとんどが過酷な状況に生き抜いた患者さんです。

確かにこれだけ数をやっている以上、日本のように繊細にやらなければ亡くなってしまう患者さんを扱うと病院がパンクしてしまいますのでしょうがない側面も強いです。

 

僕もIJNで麻酔を始めたばかりなので、事情をよくわかっていないこともたくさんあります。

マレーシアの医療事情は分かり次第更新して伝えていこうと思っています。

 

ここから申し送りです。

*信じられないかもしれませんが、IJNはすべての導入が100%酸素です。

*どんなに小さくてもCVLは内頸・外頸・鼠経から、Aラインは鼠経からメルクマール法で行います。

*CVLは小児も大人も全入れが基本、長すぎたら術野で切断しています。

*気管挿管時はミラーブレードはありません。すべてマッキントッシュ型喉頭鏡です。

*IJNは心臓単施設なので21トリソミーは居ますが、VACTERLや13・18トリソミーのような複雑な合併症を含む疾患の子供はほとんどいません。

*心臓術後は小児集中治療医が行います。小児集中治療医は小児循環器内科医のみです。

*肺の扱いは極めて雑。シャントやPDAの際に日本に比べ激しく圧排してきます。気胸も多いです。胸水の確認もTEEでできるときはしておいたほうがいいです。

*エアー抜きが激しく甘いので嫌な思いをしたくなければしっかりTEEで確認したほうがいいです。脳梗塞はもちろん、空気塞栓で立ち上がりが悪かったり余計な手間になります。

*CPB離脱から時間がたてばたつほど低体温が進みます。部屋が極寒な上に術中使える加温装置がありません。もしかすると体循環を良くしようと無理やりダイレーターで開いて放熱を上げると、低体温が進んで死んでしまうかもしれません。対策できることなし・・・

*ACTは血液が0.5mlほど必要。新生児が特にあてにならない。心肺技師と話し、回路に問題なければ問題ない。

*体温計は食道または直腸温(中枢温度)のみ。

*SpO2プローベは二つつけているが同時には出せない。右手と左手、右手と足など張っているパターンが存在するので術式によっては使いわけるようにしてください。

 

・DrR編

10kg以下

導入はケタミン2㎎×Kg+グリコピロレート4mcg/kg合剤+パンクロニウム1mg(原液2Aで4mg/4ml)

セボフルランを3%から始め適宜調節する。

気管挿管、CVL(内頚、外頚、鼠経のどれか)、Aline(鼠経)を取って手術開始。

デクランプした時からアドレナリンとミルリノンを始める(希釈から考えておそらく聞き始めるのは30分以上後)

プロタミンは原液をゆっくりショットするように言われる。

心肺後にクリスタロイドを使うことは嫌い。輸血とポンプ血で対応する。

 

疾患事の準備薬剤、注意事項

VSDーアドレナリン、ミルリノン

BTS-アドレナリンのみ。シャントを開通させてからアドレナリンを始めるかどうか検討する。

PDA-アドレナリンのみ

 

随時更新していきます。

 

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